福井市で開いた六つの社会保険労務士事務所のサイトに、お客様の声は一つもありませんでした。沼津市で開いた五つにもありません。仙台市の八つで、二つです。三つの市の19事務所で、頼んだ会社の声を載せていたのは二つでした。
同じ19のうち、相談が無料だとトップページに書いていたのは13あります。何を頼めて、相談にお金がかからないことは書いてある。けれども、誰が頼んで、何が変わったのかは、ほとんど書いていない。これが、三つの市で並べたサイトの共通の形でした。
当社は2026年9月24日に、三つの市で社労士を探すときの言葉を九つずつ検索し、1ページ目に出た地元の事務所のサイトを同じ項目で並べました。全体は社労士のホームページ集客にまとめています。この記事は、そのうち事例と声だけを扱います。
先に立場を書きます。社労士のサイトに声と事例が少ないのは、決まりが禁じているからではありません。少なくとも、当社が公式の資料で確かめた範囲に、禁じる決まりは見当たりませんでした。守秘の義務は、書けない理由ではなく、書き方の条件です。そして社労士の事例は、「どちらの味方をしたか」ではなく、「会社の手続きや規則の何が変わったか」で書けば、決まりの中に収まります。
19事務所で、事例と声を数えた
市ごとに書きます。見たのは主にトップページと料金のページで、下層のページは一部だけです。要約を介して読み取った部分もあり、見落としはありえます。
福井の六つは、お客様の声がゼロでした。事例や実績を書いていたのは二つで、どちらも助成金です。一つは助成金の申請の件数を書いていました。もう一つは受給額の合計と、個別の受給の例を金額つきでいくつか並べていました。個別の事例と呼べるものがあったのは、この一つだけです。
仙台の八つは、声を載せていたのが二つでした。一つは、業種と従業員数だけを書いた匿名の声を数多く並べていました。もう一つは、会社名、所在の区や市、代表者の名前を出した実名の声を載せていました。事例や実績の件数は、八つの事務所のサイトにはありません。一つの事務所が障害年金の専用サイトの方で相談の件数を書いていたのと、八つの外で開いた一つの事務所が、業種と人数だけの事例をいくつか載せていたのが、見えた範囲のすべてです。
沼津の五つは、声も事例もゼロでした。実績を更新したというお知らせの題はありましたが、中身は読み取れていません。
19をまとめると、声は二つ、個別の事例は一つ、件数や金額の実績は二つです。料金の金額は19のうち13が何らかの形で載せていたので、料金より事例と声のほうが、はるかに少ないことになります。
決まりが縛っているのは、声そのものではなかった
社会保険労務士の広告の決まりを、公式の資料で確かめた範囲で書きます。当社は法律の専門家ではないので、実際に載せる前には所属の会に確かめてください。
社会保険労務士法第21条は、業務で知った秘密を、正当な理由なく漏らしたり盗用したりすることを禁じています。業務をやめたあとも同じです。全国社会保険労務士会連合会の倫理綱領も、守秘の義務を掲げています。連合会の会則は、誇大または虚偽の事項で相手を欺くおそれのある方法で広告や宣伝をすることを禁じています(第43条の4)。法第1条の2は、公正な立場で誠実に業務を行うことを求めています。
もう一つ、報道があります。日本経済新聞の見出しによれば、「100%経営者の味方」という社労士の広告が、労使の中立に反するとして是正の対象になりました。本文は読めていないので、どの規程に基づき、いつの話なのかは確かめていません。
見つからなかったものも書きます。広告だけを扱う連合会の規程や指針は、連合会が公開している資料と、厚生労働省が掲載している連合会の資料からは見つけられませんでした。福井県社会保険労務士会の広告の規則も、会のサイトからは見つけられていません。宮城県と静岡県の会の規則は、確かめていません。
確かめた範囲で読むと、決まりが縛っているのは三つです。依頼した会社の秘密を漏らさないこと。数字や言い方を大げさにしないこと。労使の片方の味方だと言い切らないこと。声や事例を載せること自体を禁じる条文は、見当たりませんでした。前提になるのは、依頼した会社の了解と、会社が特定されない書き方です。
守秘の義務があるから社労士は事例を出せない、という考え方もあります。慎重さとしては正しいと思います。ただ、同じ決まりの下で、仙台の二つの事務所は声を載せていました。書けない決まりがあるのではなく、了解を取り、特定されない形を決める手順が、まだ事務所の中にないだけかもしれません。
仙台の二つの事務所が見せていた、二つの形
仙台の二つは、対照的な形でした。
一つ目は、業種と従業員数だけを書いた匿名の声を、数多く並べる形です。会社名を出さないので、了解を取るときの頼みごとは小さくて済みます。そのかわり、読む側から見ると、一件ごとの手がかりは業種と人数だけになります。数が並んでいることで、「自分と同じくらいの会社も頼んでいる」と分かる形です。
二つ目は、会社名、区や市、代表者の名前を出した実名の声です。読む側にとっては確かめようのある声で、重みがあります。そのかわり、了解の範囲は広くなります。名前を出すことに同意してもらい、書いた文面を見てもらう必要があります。
どちらがよいかは、事務所と顧問先の関係によります。一つ注意しておきたいのは、市の大きさです。福井市の民営の事業所は15,338、沼津市は9,599です(どちらも2021年の経済センサス-活動調査)。仙台より小さな市では、業種と人数と町の名前がそろうだけで、どの会社かが分かってしまう組み合わせがありえます。匿名のつもりの声でも、小さな市では、業種を「製造業」のように広くとる、人数を幅で書く、町の名前は書かない、といった一段の配慮が要ります。
福井の助成金の事例のように、受給額を金額で書く形もあります。書くこと自体は禁じられていませんが、会則の「誇大」に当たらないよう、何を数えた額なのか、いつ時点の数なのかを添えます。県内での順位のような比べる言い方は、根拠を示せないなら書かないほうが安全です。受給額の例は、読む人に「同じくらいもらえる」と受け取られやすいことにも気をつけます。
社労士の事例は、「何が変わったか」で書く
当社なら、社労士の事例を次の項目で書きます。
- 会社の業種(広めに)と、従業員数(幅で)。
- 頼む前に困っていたこと。手続きが遅れていた、規則が何年も前のままだった、36協定を出していなかった、など。
- 事務所がしたこと。規則のどこを直したか、どの手続きを引き受けたか。
- かかった期間。
- 会社の側がしたこと。社員への説明、書類の用意など。
書かないのは、会社名(了解がなければ)、特定につながる細部、そして片方の味方と読める書き方です。「問題の社員を辞めさせた」「会社を守った」のような書き方は、法第1条の2の公正な立場とぶつかりやすく、報道にあった是正の例とも向きが同じです。事例に書くのは、会社が何をすれば法に沿う形になったか、までにします。
障害年金の事例は、会社の事例よりもさらに慎重に扱います。本人の病気や暮らしに触れる話で、特定されたときの重さが違います。載せるなら、本人の了解を取ったうえで、請求の流れと、事務所がどこを手伝ったかにとどめます。
了解の取り方は、事務所によって違ってかまいません。一つ勧めるなら、載せる文面を先に書いてしまい、それを見せて了解をもらう形です。「声をください」と頼むより、相手の手間が少なく、どこまで書くのかも相手に見えます。
御事務所のサイトで、今日数えること
- 御事務所のサイトを開き、お客様の声と事例がそれぞれ何件あるかを数えます。料金のページがあるなら、料金の項目の数と並べてみてください。
- 実績の件数や受給額を書いているなら、何を数えた数で、いつ時点の数かが書いてあるかを見ます。
- 顧問先の中から、了解をもらえそうな一社を思い浮かべ、上の五つの項目で、その会社の事例を下書きしてみます。業種と人数と地区で、その会社だと分かってしまわないかを確かめます。
- トップの「無料」の近くに、その一件を置けるかを考えます。
事例がゼロで、了解をもらえそうな顧問先が一社でも思い浮かぶなら、足りないのは決まりの確認ではなく、その一社に見せる下書きです。