施工事例、導入事例、解決事例、お客様の声。呼び名は業種で違っても、どれも「この会社に頼むと、自分の場合はどうなりそうか」を読む人が推し量るためのページです。「事例 ページ 作り方」「お客様の声 載せ方」で検索すると、写真の撮り方やデザイン、載せる項目の一覧が多く出てきます。一方で、事例一件に何をそろえれば比べる材料になるのか、掲載の了解をどう取るのか、載せた声が法律の上でどう扱われるのかまで書いた記事は多くありませんでした。
当社は2026年9月24日に、9つの業種、27の商圏で、地元の事業者のサイトを同じ項目で開きました。この記事では、その記録のうち事例と声にかかわる数字と、消費者庁・個人情報保護委員会などの公開資料で確かめた決まりをもとに、業種を問わず使える事例ページの作り方を書きます。
先に結論をまとめます。
- 事例は「あるかどうか」より、一件ごとに同じ項目がそろっているかで差がつきます。当社が勧める項目は、何に困っていたか、地域、期間、費用の幅、結果、担当者の判断の六つです。
- 掲載の了解は、何を、どこに、いつまで載せるかを書いた紙かメールで取り、公開前の文面を本人に見てもらいます。
- 好意的な声だけを選んで載せた「お客様の声」は、消費者庁の考え方では事業者自身の表示として扱われます。「個人の感想です」と添えても、読む人の受け取り方はほとんど変わらないとされています。
数えた事業者のサイトで、事例と声はどう載っていたか
まず、当社が数えた範囲の事実です。お客様の声を載せていた事業者の数を業種ごとに並べます。サイトは主にトップページと料金・声・お知らせのページを開いて確かめたもので、下層のページの見落としはありえます。業種ごとに確かめ方が少しずつ違うため、割合での比較はしません(数え方と限界は9業種・27の商圏で検索結果を数えた記録にあります)。
| 業種 | お客様の声を載せていた事業者 |
|---|---|
| 工務店 | 松本8中4、倉敷8中6、宇都宮8中6 |
| 不動産会社 | 福山8中7、高知8中5、上田5中2 |
| 弁護士 | 新潟8中4、松江8中0、旭川8中1 |
| 司法書士 | 岡山8中4、富山7中1、甲府5中1 |
| 行政書士 | 熊本・静岡・宇都宮の24中5 |
| 社会保険労務士 | 福井・仙台・沼津の19中2(どちらも仙台) |
| 税理士 | 声か事例が見当たらなかったのが、金沢8中2、大分8中5、松山8中4 |
声を載せている事業者は、工務店と不動産会社に多く、士業の事務所では少数でした。士業で少ない理由として守秘の義務がよく挙げられますが、決まりを並べてみると、事例には「依頼者が特定されない書き方」という道が開いている士業もあります。この点は士業のお客様の声と事例の載せ方で五つの士業を並べました。
もう一つ見えたのは、事例が「ある」ことと、比べる材料になっていることは別だという点です。工務店の24社は、すべてのサイトに施工事例がありました。それでも、事例に建てた市町村を書いていたのは倉敷で8社中8社、宇都宮で少なくとも6社、松本では2社です。自社の注文住宅の価格を数字で示していたのは24社中3社で、3社とも事例のページではなく、よくある質問やコラムの中でした(3つの市で検索結果と24社のサイトを数えた記録)。写真はそろっていても、「どこで、いくらで、どのくらいの期間で」が事例の中から読み取れない会社が多数だったことになります。
事例一件に載せる六つの項目
ここからは当社の見立てです。相談を迷っている人が事例で知りたいのは、自分と似た状況の人が、何を頼み、どのくらいの期間と費用で、どうなったかです。そこに、その会社がなぜその進め方を選んだのかが加わると、他社と比べる理由になります。当社は一件ごとに次の六つをそろえることを勧めています。
| 項目 | 書く中身 | 書くときの注意 |
|---|---|---|
| 何に困っていたか | 相談に来たときの状態と、きっかけ | 「〜したい」という希望だけでなく、何が決められずにいたかまで書く |
| 地域 | 市町村まで | 小さな町では、町名と職業や家族構成の組み合わせで人が分かることがある |
| 期間 | 相談から完了まで、主な区切りごとの期間 | 「約◯か月」と幅で書き、途中で待った時間があれば理由も添える |
| 費用の幅 | 総額の幅と、何を含んだ金額か | 端数まで書かない。含まないもの(別途の費用)を一行で添える |
| 結果 | 終わったときに何が変わったか | 測った数字は測ったものだけ。うまくいかなかった点があれば、それも事実として書く |
| 担当者の判断 | 選んだ進め方と、選ばなかった進め方、その理由 | 他社のやり方を悪く言う形にしない。自社がこの条件ならこう判断する、という書き方にする |
上位の記事でよく挙がる「写真」「キャッチコピー」「担当者の顔」は、この六つを読みやすく見せるための道具です。写真は見栄えより、何が写っているかの説明が付いているかを確かめます。
差がつくのは「担当者の判断」の欄
六つのうち五つは、事業者なら手元の記録から書けます。差がつくのは最後の「担当者の判断」です。工務店なら、建て替えか大規模な改修かで迷った家族に、なぜ建て替えを勧めたのか。税理士なら、決算の前に相談に来た会社に、何を先に手当てしたのか。修理や設備の会社なら、交換ではなく修理で済ませた理由。ここは同業他社にまねのできない部分で、読む人にとっては「この会社は自分の場合も同じように考えてくれそうか」を確かめる材料になります。
書き方の形を、空欄つきで示します。実在の事例ではなく、項目の並べ方の例です。
- 題:◯◯市・◯◯で迷っていた◯◯の方の事例(◯年完了)
- ご相談のときの状況:◯◯をしたいが、◯◯と◯◯のどちらがよいか決められずにいた
- 期間:最初の相談から◯か月(うち◯か月は◯◯の手続きの待ち)
- 費用:◯◯万〜◯◯万円台(◯◯を含む。◯◯は別途)
- 担当者の判断:◯◯の条件があったため、◯◯ではなく◯◯を選んだ。◯◯の場合なら別の進め方になる
- 結果:◯◯ができるようになった。◯◯は残った課題として、◯◯で対応した
- (了解をいただけた場合)ご本人の一言:いただいた言葉をそのまま
声は、この形の最後に同じ案件の一言として添えると、何についての感想なのかが読む人に伝わります。声だけを集めた一覧のページは、案件の中身が分からないまま「満足しました」が並びやすく、比べる材料になりにくいと当社は見ています。
書く前に、削る項目を決める
地域の事業者の事例は、全国向けの事例より人が特定されやすくなります。市の名前、職業、家族構成、建物の特徴、時期が重なると、近所の人には誰の話か分かることがあります。当社は事例を書く前に、名前、町名、日付、金額の端数、珍しい職業や家族の構成のうち、どれを削るかを先に決めます。削ったあとに残ったものが本文になります。士業のように守秘の義務がある業種では、この順番がとくに大事になります。
掲載の了解の取り方:何を、どこに、いつまで
お客様の名前、顔の写った写真、住まいの外観などは、その人が誰か分かる情報です。個人情報保護委員会のQ&A(医療・介護関係事業者向けのガイダンスに関するQ&A、Q4-15)は、写真も個人を識別できるものであれば個人情報に当たり、ホームページや機関誌への掲載などで第三者の閲覧に供するときは本人の同意を得る必要がある、と答えています。医療・介護の事業者向けの回答ですが、当社は業種を問わず、人が分かる情報を事例や声に載せるときは同じ考え方で了解を取るのが安全だと考えています。
了解は「載せてもいいですか」「いいですよ」の口約束で済ませず、何を了解してもらったかが後から確かめられる形で残します。当社が了解の書面(紙でもメールでも構いません)に入れている項目は次のとおりです。
- 載せる場所:自社サイト、チラシ、SNS、Googleのビジネスプロフィールなど、どこに載せるか
- 載せる項目:名前の出し方(実名、イニシャル、「◯代のご夫婦」など)、写真(顔が写るか、外観か)、市町村、費用の幅、期間
- 文面:公開する文章を事前に見てもらい、直してほしいところを聞く
- 掲載の期間:いつまで載せるか、期間を決めない場合はその旨
- 取り下げ:あとから取り下げたくなったときの連絡先と、取り下げにかかる日数の目安
- 謝礼:お礼を渡すかどうか、渡すなら何か
了解をお願いする時期として、当社は引き渡しや完了の手続きのときを勧めています。ただ、その場で文面まで決める必要はありません。先に「載せる場所」と「載せる項目」の範囲だけ了解をもらい、文面ができたら見てもらう、という二段にすると、相手の負担が軽くなります。実名で載せる声は、読む人にとって確かめようのある声で、そのぶん了解の範囲も広くなります。名前を出すこと、文面、載せておく期間まで、書面で確かめておきます。
守秘の義務がある士業、広告の決まりがある医療
業種によっては、お客様の了解とは別の決まりが先に来ます。行政書士法第12条、社会保険労務士法第21条、税理士法第38条は、業務で知った秘密を漏らすことを禁じています。弁護士は日本弁護士連合会の業務広告に関する規程第4条が、過去や受任中の事件を表示できる場合を、依頼者の書面などによる同意がある場合、広く知られた事件である場合、依頼者が特定されず利益を損なうおそれがない場合に限っています。士業ごとの違いは士業のお客様の声と事例の載せ方にまとめています。
医療機関は、さらに前提が変わります。厚生労働省の「医療広告ガイドラインに関するQ&A」は、医療機関が自院のウェブサイトに、自院にとって便益を与えるような感想などを取捨選択して載せることを、広告できない事項として扱っています。医療の分野で「患者さまの声」を載せようとしているなら、この記事の作り方より先に、ガイドラインとQ&Aを確かめてください。
お客様の声を載せるときの表示の決まり
多くの業種にかかわるのが、景品表示法です。2023年10月1日に、ステルスマーケティング(広告であることを隠した宣伝)を不当表示とする告示「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)が施行されました。消費者庁がこの告示について公開しているQ&Aのうち、事例や声のページにかかわるものを、当社が読んだ範囲で並べます。
| 場面 | 消費者庁のQ&Aの考え方 |
|---|---|
| アンケートの回答を「お客様の声」として自社サイトに載せる(Q10) | 無作為に選んだ回答を、内容を変えずにそのまま引用するなら「事業者の表示」に当たらない。好意的な評価のものだけを選んだり、「良い点」の部分だけを抜き出したりすれば「事業者の表示」に当たり、そうと明瞭にしなければ告示に違反する |
| 依頼したインフルエンサーの投稿を「お客様の声」として載せる(Q16) | 「お客様の声」として載せるのは不適切。載せるなら、事業者が依頼した投稿であることが明瞭に分かるようにする |
| 予約サイトへの口コミ投稿を条件に割引する(Q6) | 投稿内容の指示がなく、割引程度の対価なら「事業者の表示」に当たらない。星5をつけることを条件にすれば、事業者が投稿の内容を決めているといえ「事業者の表示」に当たる |
| ECサイトへのレビュー投稿を条件にクーポンを渡す(Q7) | 投稿内容の指示がなく、クーポン程度の対価なら、通常は「事業者の表示」に当たらない |
自社サイトの声のページは、多くの場合、事業者が了解を取れた声の中から選んで載せています。Q10の考え方に沿えば、それは事業者自身の表示です。当社は、声のページや事例の冒頭に「掲載の了解をいただいた方の声を、当社が選んで載せています」と一行置くことを勧めています。読む人にとっては当たり前に見える一行ですが、選んで載せていることを隠していないと示せます。謝礼を渡して書いてもらった声なら、そのことも添えます。
Googleの口コミなど外のサイトの声を自社サイトに引いてくる場合も、どの口コミを選んで載せているのか、頼んで書いてもらったものが混ざっていないかを、事業者の側で説明できることが前提になります。Googleのビジネスプロフィールの口コミの決まりはGoogleマップ集客とビジネスプロフィール運用に書きました。
「個人の感想です」では打ち消せない
目立つ成果の事例や声に「個人の感想です」「効果には個人差があります」と小さく添える書き方は、よく見かけます。消費者庁の「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」(2018年6月)は、こうした打消し表示に気付いたとしても、体験談から受ける「大体の人が効果を得られる」という認識が変わることはほとんどないと考えられる、としています。そのうえで、体験談を使うなら、事業者が行った調査の人数と属性、体験談と同じような効果が得られた人の割合、得られなかった人の割合などを明瞭に表示するよう求めています。
この資料が主に念頭に置いているのは健康食品や美容のような商品ですが、考え方は地域の事業者の事例にも通じると当社は見ています。たとえば「光熱費が半分になった」「◯◯が通った」という事例を一件だけ大きく載せると、読む人はそれがふつうの結果だと受け取りやすくなります。全件がそうでないなら、「この1年に手がけた◯件のうち◯件」のように件数で示すか、条件がそろった一件であることを本文で説明するほうが、読む人の受け取り方と事実がずれません。数字が出せない結果は、数字にせず事実だけを書きます。
声には手を入れない
事例は事業者の言葉なので、削ったり言い換えたりできます。声は本人の言葉なので、手を入れた時点で本人の言葉ではなくなります。当社は、声は了解を得た文面のまま載せ、長い場合は本人に了解を得て短くし、そうしたことを書き添える扱いにしています。実在しない依頼者の文章を「お客様の声」として載せることや、事実と違う結果を脚色して載せることは、弁護士の指針や、ある県の司法書士会の運用指針でも、事実に合致しない広告の例として挙げられています。
事例が書けないとき、声が集まらないとき
了解がなかなか取れない、守秘の義務があって具体的に書けない、という場面もあります。当社は、その場合も事例を諦めず、一件ごとの話ではなく「よくある相談の型」として書く方法を勧めています。特定の依頼者の話ではなく、同じような相談が複数あった状況を一つにまとめ、期間と費用の幅、判断の分かれ目を書きます。その場合は、実際の一件ではなく、よくある相談をまとめたものだと本文で明記します。読む人は、それを一件の実話と取り違えずに済みます。
声が集まらないときは、了解の取り方より先に、頼み方を見直します。「感想を書いてください」と白紙を渡すより、「最初に何で迷っていましたか」「決め手は何でしたか」「始める前の自分に一言伝えるなら」のように、答えやすい問いを三つほど用意するほうが、具体的な言葉が返ってきます。問いを用意しても、答えの中身を誘導しないことは前提です。
業種ごとの事例の項目は、柱の記事に書いています。工務店なら工務店のホームページ制作で、施工事例に毎回そろえる項目と、価格の載せ方を24社の数字とあわせて書きました。士業の事務所は、上に挙げた士業の記事から、各士業のホームページの記事に進めます。
今日、自社で確かめられること
- 自社サイトの事例を三つ開き、何に困っていたか、地域、期間、費用の幅、結果、担当者の判断の六つのうち、いくつ書かれているかを数えます。
- 載せている声と事例の一件ずつについて、了解の書面かメールが残っているか、名前や写真を出すことまで了解の範囲に入っているかを確かめます。
- 声のページに、選んで載せていること、謝礼を渡したならそのことが書かれているかを見ます。書かれていなければ、冒頭に一行足します。
- 「個人の感想です」「効果には個人差があります」と添えている事例を探し、件数や条件で説明し直せるかを考えます。
- 事例を地元の人の目で読み直し、市町村、職業、時期、建物の特徴の組み合わせで、誰の話か分かってしまわないかを確かめます。
一つ目で六つのうち半分も書かれていなければ、次に完了する一件から、了解の書面と六つの項目を一緒に用意してみてください。事例を増やすより先に、一件の中身をそろえるほうが、比べに来た人に届く材料になります。